アダプター蛋白質を介するシグナル伝達調節 (羽溪・定)

シグナル伝達分子は、生体の維持や成長に不可欠な反応に関わり、特定かつ重要な役割を担っている。シグナル伝達分子の一種であるアダプター蛋白質は他の分子と会合するための機能ドメインを有するが、自らは酵素活性を持たないため、シグナル伝達における単なる「繋ぎ役」の分子とされ、これまであまり重要視されなかった。しかし、近年の研究により、アダプター蛋白質がより積極的にシグナル伝達を調節し、細胞応答に影響を与えていることが明らかとなってきた。

われわれは非受容体型チロシンキナーゼSykがマスト細胞からのヒスタミン放出に必須であることを、Syk欠損マスト細胞株を用いて明らかにした(J. Immunol. 2000Blood 2001)。Sykの会合分子であるアダプター蛋白質3BP2(c-Abl SH3 domain-binding protein-2)は高親和性IgE受容体を介するマスト細胞の活性化を促進する(Blood 2002)。またチロシンキナーゼLynのSH2/SH3ドメインのリガンドとして作用しLynの高次構造変化による活性化を引き起こし(J. Biol. Chem. 2003)、T細胞では抗原によるNFATやIL-2プロモーターの活性化に必然的な役割を果たすことを明らかにした(Biochemistry 2005)。また、並行してIgEのシグナル伝達系路を負に調節するメカニズムについての解析を行い、ユビキチンリガーゼc-CblとCbl-bがIgE受容体を介するマスト細胞活性化を抑制することを見出した(Genes Cells 2003Blood 2004)。さらに、浸透圧ストレスを介するチロシンキナーゼSyk活性化の分子メカニズムを明らかにした(Mol. Cell. Biol. 2004)。

2001年、3BP2遺伝子の点突然変異がヒト遺伝疾患チェルビズムを引き起こすことが報告された。また下顎骨の発達不全と精神遅滞を伴うWolf-Hirschhorn症候群や膀胱癌においても3BP2遺伝子が欠失する。最近のわれわれの興味は、3BP2 遺伝子の変異が如何にヒトの疾病を発症に至るのかというところに移りつつあり、既にチェルビズム型の3BP2が機能不全型を示すことなど、興味深い知見を報告している(Genes Cells 2004)。今後は、アダプター蛋白質3BP2の変異によるチェルビズムの発症と病態についての骨免疫学的解析や、3BP2と複合体を形成する受容体蛋白質2B4についての機能解析を進めていきたい。2008年、これまでのアダプター蛋白質3BP2についての研究成果と最新の知見を総説として発表した(Curr. Med. Chem. 2008)。

3BP2をチロシンリン酸化する酵素は長らく謎であったが、最近われわれがB細胞においてSykが3BP2のチロシンリン酸化に不可欠であることを見出した。Sykによりリン酸化された3BP2のチロシン183はホスホリパーゼC-γ2とグアニンヌクレオチド交換因子Vav1のSH2ドメインに直接会合し、また3BP2のSH2ドメインは別のアダプタータンパク質BLNKに直接会合する。こうして生成されたシグナル伝達分子の複合体により転写因子NFATの活性化を促進することが明かとなった(J. Biol. Chem. 2009)。


並行して、神戸女子大学の田村奈緒子准教授と共同で抗アレルギー作用を有する食品成分についてマスト細胞のシグナル伝達系への影響について解析を行っている。


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